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福岡地方裁判所 昭和28年(行)1号 判決 1955年3月10日

原告 宮原類男

被告 福岡国税局長

訴訟代理人 今井文雄 外二名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、双方の申立

原告訴訟代理人は「被告が原告に対し昭和二十六年度所得額につき昭和二十七年十月二十二日になした再審査決定は之を取消す。訴訟費用は被告の負担とする」との判決を求める旨申立てた。被告指定代理人は主文同旨の判決を求めた。

第二、双方に争のない事実

一、原告は妻フジノ長女恵美子との三人家族である。

二、訴外小倉税務署長は原告に対し、昭和二十七年三月二十九日原告の昭和二十六年度総所得額を金八十一万三千四百円と決定し、原告はその頃その旨の決定の通知を受けた。

三、原告は右小倉税務署長に対し、同年四月二十四日再調査の申立をしたが、同署長は同年八月一日右申立を棄却する旨の決定をなし原告はその頃その趣旨の再調査決定の通知を受けた。

四、原告は被告に対し、同年八月十二日再審査の請求をしたところ、同年十月二十二日被告は再調査決定を取消し、原決定を変更し、昭和二十六年度の総所得額を金四十七万五千五百円とする旨の決定をなし、原告はその頃その趣旨の再審査決定の通知を受けた。

第三、争点

一、原告の主張

原告は昭和二十六年度は無職であつてなんら収入を取得していない。生活は全く長女恵美子が小学校教官として取得する給料に依存していたものである。従つて同年度の総所得額は零であるから右再審査決定は違法であり取消を免れない。

二、被告の主張

(一)  原告は大蔵大臣に貸金業の届出を受理されないまま貸金業を営んでいたものであつて、訴外田渋吉郎に対し昭和二十五年二月五日以降同年九月二十五日迄の間に九回に亘り合計金百九十六万円を、各回いずれも期間三ケ月利息月一割の約定で貸付け、右同日右金百九十六万円を支払期日同年十二月三十一日利息月一割に約定を変更した。そこで右同日において右同年十月乃至十二月分の利息は合計金五十八万八千円となつた。ところで右同日右元金に対する利息を月八分に引下げたので昭和二十六年一、二月の右元金に対する利息は各月末日において金十五万六千八百円となつた。そこで同年二月二十八日に右利息合計九十万千六百円を前示元金に組入れたので、元金は金二百八十六万千六百円となり、また同日利息を月四分に引下げた。田渋はなんら元利金の弁済をしなかつたので同年三、四月の右元金に対する利息は各月末日において金十一万四千四百六十四円となつた。同年四月三十日には右利息合計金二十二万八千九百二十八円から田渋に支払うべき醤油代金四万四千七百円を差引き。さらに端数二十八円を免除して金十八万四千円を前示元金に組入れたので元金は金三百四万五千八百円となつたものである。従つて原告は右のように昭和二十六年一月乃至四月の各末日において各末日迄に発生しかつ確定した各元金に対する前掲額の利息債権を取得したのであるから同年四月三十日迄に右利息合計五十四万二千五百二十八円の事業所得があつたのである。

(二)  原告は自己所有の家屋を訴外尾花シゲ子並に柴内磯波に賃貸し昭和二十六年度中にその賃貸料を尾花から金七千二百円を柴内から金一万四千四百円を受領しているので右合計金二万千六百円の不動産所得があつたものである。

(三)  右(一)(二)の所得合計金五十六万四千百二十八円となるのであるが再審査において決定した総所得金四十七万五千五百円は右金額に比較しむしろ軽きに失する位であつて、毫も原告主張の如き違法はない。

三、原告の反駁

(一)  原告は貸金業はやつていない。

(二)  原告は訴外酒井輝武より昭和二十五年二月二十一日同人所有の小倉市大門町五十五番地の一、宅地三十二坪七合一勺、同所五十六番地の一、宅地三十二坪六合二勺、同所五十五番地の一、五十六番地の一、家屋番号七十五番、木造瓦葺三階建店舗一棟、建坪六十九坪五合五勺、外二階四十八坪七合五勺、外三階二十一坪(以下単に本件土地建物と略称する。)を買受けるべく、同人との間に売買の予約をなし即日所有権移転請求権保全の仮登記をなし、右代金として同年末迄に数回に分けて合計金百九十六万円を支払つた。ところが本件土地建物の時価が昇上したので、昭和二十六年四月三十日酒井との間に、同年六月三十日迄に酒井が原告に対し金三百四万五千八百円を支払つた場合は右契約を解除する。支払わないときは同日を以て本件土地建物は原告の所有とする旨の特約をなしたが、酒井は右期日迄に右金員の支払をなさなかつたので原告はなんら利益を収得するに至らなかつたのであるから結局収入は零であつて、右金百九十六万円を田渋吉郎に貸付けたことはないし、又田渋に対し醤油代金四万四千七百円の債務を負つたこともない。

(三)  被告主張のように、尾花シゲ子、柴内磯波からその主張額の賃貸料を受領したことは認めるが、該家屋は原告の妻フジノの所有であるから右賃貸料は原告の収入ではない。

第四、証拠<省略>

理由

成立に争ない乙第二乃至第九号証を総合すると、原告は大蔵大臣に貸金業の届出を受理されないまま貸金業を営んでいたものであるが、昭和二十五年二月五日頃訴外田渋吉郎に金十万円を期間三ヶ月利息月一割の約定で貸付け、更に同月二十一日右田渋に対し金二十万円を前同様の約定にて貸付け、訴外酒井輝武は右田渋の債務につき連帯して保証し、かつ自己所有の本件土地建物を右債務金三十万円のため売渡担保となし、同日原告のため所有権移転請求権保全の仮登記をしたこと爾後同年三月十五日以降同年九月二十五日迄の間七回に亘り金十五万円乃至金三十一万円の金員を前同様の約定にて田渋に貸付け、酒井はその都度田渋の債務を連帯して保証し、本件土地建物を各借受金の担保としたこと。右同日迄の田渋に対する貸付金は合計金百九十六万円となつたので、同日右金百九十六万円につき支払期日同年十二月三十一日利息月一割と約定を改めたこと。そこで同年十月乃至十二月各月の利息は各月末日においてそれぞれ金十九万六千円となつたこと、同年十二月三十一日に昭和二十六年一月一日以降は利息を月八分に引下げたこと、そこで同年一月及び二月の右元金に対する利息は各月末日において金十五万六千八百円となつたこと、同年二月末日に右昭和二十五年十月分以降昭和二十六年二月分迄の利息合計金九十五万千六百円を前示元金に組入れ元金二百八十六万千六百円となし、同年三月一日以降は利息を月四分に引下げたこと、そこで同年三月及び四月の右元金に対する利息は各月末日において金十一万四千四百六十四円となつたこと、ところで原告は田渋に対し支払うべき醤油代金四万四千七百円の債務を負つていたので、同年四月三十日右利息合計金二十二万八千九百二十八円から右醤油代金を差引きかつ端数金二十八円を免除して、右利息金十八万四千円を前示元金に組入れ元金三百四万五千八百円となしたこと、そこで同日あらためて右金三百四万五千八百円につき支払期日同年六月三十日利息月五分利息の支払期日は毎月末日とする旨の約定をなし、酒井は右債務を連帯して保証し、もし右期日迄に支払をなさないときは本件土地建物を右債務の代物弁済として右六月三十日を以て原告に所有権を移転することとしたことが認められる。してみれば昭和二十六年一月三十一日並に同年二月二十八日にそれぞれ金十五万六千八百円の利息債権が発生し、右各利息額は右同日元金に組入れられ、同年三月三十一日並に四月三十日にそれぞれ金十一万四千四百六十四円の利息債権が発生し、右各利息債権中前示醤油代金として差引いた額及び免除した額を控除した残額金十八万四千円は右同日右元金に組入れられためで元金は金三百四万五千八百円となり右各利息債権は元本債権の一部となつたのであるが、右元金の支払期日は同年六月三十日であることば明らかであるから、右利息債権についてもいずれも同年六月三十日に支払期日が到来したものであるというべく、従つて同日を以て右利息債権の権利は確定したと解するを相当とするから原告は右同日に右同年一月乃至四月各末日に発生した利息合計金四十九万七千六百円の収入があつたといわなければならない。原告は前掲金百九十六万円は酒井から同人所有の本件土地建物を買受けるため同人に支払つた売買代金であると主張するけれども、既に認定したところから明らかなように右金百九十六万円は田渋に対する貸付金であることは明瞭であるし、本件土地建物につきなされた所有権移転請求権保全の仮登記は単純な売買予約に基いてなされたものではなく右田渋の債務について酒井が売渡担保として本件土地建物を提供しそのために附されたものであることが認められるから右事実を以て金百九十六万円が本件土地建物の売買代金としで支払われたものであると称することはできない。原告の主張が右の点において肯認できない以上右主張を前提とする原告の主張は判断するまでもなく採用の限りでない。右認定に反する原告本人訊間の結果は措信できないし、右認定を覆すに足りる他の証拠はない。

右認定したところよりすれば、右事実のみを以て原告の昭和二十六年度の収入は再審査決定において認定された総所得額金四十七万五千五百円よりは多額であることが明かであるから、その他の主張につき審究するまでもなく再審査決定は適法であるといわなければならない。

よつてその取消を求める原告の本訴請求は棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 小野謙次郎 中池利男 石丸俊彦)

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